論文「繁昌の作例紹介」
繁昌は通説、繁慶門下にして寡作の工であり、世に知られているものは僅かに短刀四口、脇指一口にとどまると言われております。
その内、短刀三口については既に『刀剣美術』誌上、紹介されていると記憶するところですが、残る二口について臨模する機会が得られましたので、茲に披見に供します。
図1 短刀 銘 繁昌
法量 刃長 二九・七糎
反り ○・一糎
元幅 二・八六糎(棟高含む)
元重ね ○・六二糎
平造、三ツ棟、身幅広く、寸延びて、重ねやや厚い。
鍛えは大板目に杢交じり、流れ、肌立ち地沸ついて、地景入る。
刃文は浅い湾れ調に互の目交じり、沸足入り、よく沸づき、上半一段と焼き深く、沸筋と金筋入り、飛焼かかり、匂口沈む。帽子は焼き深く、湾れ込んで、先小丸風に激しく沸づき、沸筋・金筋が幾条か渦巻き、返り長く棟焼へと続く。
茎は棟区深く、極端に先細る。目釘孔一、鑢目(表)勝手下り・(裏)勝手上り、茎棟角に切り鑢、刃方は面を取る。
図2 脇指 銘 繁昌
法量 刃長 三三・一糎
反り ○・四糎
元幅 三・四二糎
元重ね ○・六三糎
平造、三ツ棟、身幅広く、寸延びて、先反り加減、重ね厚め。
鍛えは大板目、地沸ついて、太い地景入り、裏腰元に大きく異鉄が露呈して地斑をなし、湯走り頻りにかかる。
刃文は浅い湾れを基調に互の目を交え、よく沸づき、ほつれ、砂流し・金筋入り、島刃状に沸凝り、匂口沈む。
帽子は研ぎを経たためか焼きやや浅くなり、乱れ込んで先尖りごころに掃きかけ、沸筋が地刃に跨がる。
茎は図1同様であるが、両区深く、若干の区を送り、目釘孔二、鑢目は裏勝手上がりがやや浅く、刃方角となり、筋違鑢かかる。
この二口の銘字は穿孔による欠画もなく鮮明な点が貴重でありますが、師繁慶で言うところの「ル又」を刻して殆ど酷似しており、古の同人説も宜なるかなと思われます。
また、姿態については概ねこれまで言われているものに沿っており、区深く棟のおろしが急な点も師伝通りでありますが、
図2については大きく寸の延びた小脇指に属する体配のせいか、先反りが加わっており、他の短刀形態とは若干趣を異にしております。
地鉄は家伝独特の大板目で、所謂ひじき肌を見せており、殊に図1では帽子の刃中にもそれが顕著に現れて、野趣に富んだ放胆さを感じさせております。
刃文は強い沸出来ながら、どんよりと沈んで匂口に冴えが足りません。
通常、これらの作風をして繁慶同様、越中の則重に範をもとめたものと流布されておりますが、二、三の相似する様相は別として、一概に彼の工に私淑していたとするには些か首肯し難い雰囲気があり、広義的に相州上工を参酌した作域と
観するのが相応かと思われます。
注目すべき点は、区際の焼き込みにあります。僅かな事例での帰納は早計かもしれませんが、他にも同様な手口を一口経眼しており、本工の手癖の一つと見て差し支えないのではと愚考する次第です。
(こんどうほうじ・岐阜県支部会員)