「美濃鍛冶小論」

19−2 能神事を奉納


  また、「関鍛冶累代之系図」(三宅政男氏蔵)の若狭守氏房の添書に「前略……
藤原氏之祖神、春日大明神為鍛冶之氏神故継藤原之氏於此社自往古毎年正月
二十八日有神事能七流之鍛冶勤之……云々」とあり、室町時代の何時からか
関鍛冶の手により、同社に於て能神事が奉納されていた事は確かな事で、関鍛冶の
繁栄とともに同神社が隆盛をみ彼等の衰退とともに命運を一つにした事が推察でき
ます。

 この事は、いま同神社に残される能面、能装束等が、室町時代中心に作られたもの
が多く、能関係の資料としては、在銘面「若女」の銘に「小面写永和弐年(一三七六)
三月日金春元安(花押)」とあり、現在判明している記念銘では、日本最古と思われる
もの等の貴重な資料となっている事からも、当時、都から離れたこの地にこれ等の
一級品を集める事ができた関鍛冶の力の大きさ、および中央勢力(室町幕府)との
結びつきの強さを感じさせる証しではないでしょうか。

 また、想像を大きくすれば、これら能衣裳の中に明らかに当時の外国製と思われる
模様、文字等を織り込んだ能衣裳が数点残されており、当時室町幕府が盛んに行った
対明刀剣貿易と関鍛冶との関係を連想される資料がある事から、刀剣関係にとっては
興味を引く資料と思われます。

 これ等資料は現在、国指定重要文化財とし、同神社に保管されています。
 このように、関鍛冶の手によりすべてを取り仕切られた同神社に対する奉納刀等の
刀剣蔵品は、数多くあると思えるのですが、以外に少なく、少々疑問に思われます。

 現在の蔵品を二、三紹介させていただきます。

  刀  銘 濃州関住兼常
       文禄五年十二月吉日

  脇指 銘 善定藤原兼門
       領主武藤宗三良嘉門

  刀  銘 奉籠春日大明神 
       美濃関備中守藤原清宣
       万治三年庚子二月吉日

 以上紹介させていただきました「関・春日神社」は、現在、関市春日町に鎮座し、
現在も刀匠の手により祭事が行なわれ、過日の関鍛冶の面影を残しています。

本稿参考文献
 関市史
 美濃刀大鑑(刀連発行)