「美濃鍛冶小論」
おわりに
本欄「美濃鍛冶小論」本紙編集部の勧めで筆をとらせていただきまして
早いもので一年経ちました。
専門書では採り上げない分野を主にとの考えより、内容としては雑文的に
なりました事を反省いたします。
当初は準備しました草案もありましたが、その内容もまたたく間に底をつき、
以後は資料収集、起稿の繰り返しで編集部に多大の迷惑をお掛けした事ばかりで
ありました。
今回、編集部より継続の強い依頼もありましたが、このまま続けます事は、
本紙に多大の御迷惑をお掛けする事になりかねませんので、一応本稿をもちまして
次の準備が出来ます迄休ませていただく事になりました。
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担当させていただきます以前は、一刀剣趣味人として軽い気持ちで「美濃鍛冶」を
見ていましたが、彼等を見直す機会を与えられ、あらためて感じました事は、彼等に
関する資料の少ない事でありました。
当時の職人世界の状況が残される事を期待する事が無理な事かもしれませんが、
それにしても資料の少ない事に身をもって直面する事になりました。
現在、我々が彼等について勉強しようと考えますと、室町時代より江戸期にかけての
刀剣書、及び彼等の作品の何パーセントかの刀剣等が唯一の資料で、これ等資料に
於いてすら目を通す事が難しいのが現状で、少数の方々の研究発表を鵜のみにする
ことが現実のように思われます。
※ ※
私の独断と偏見かもしれませんが、これ等研究の多くは、非常に狭義の研究(目先の
刀剣等のみに着目した研究)が主で当時の社会、経済等を無視している傾向が強く
感じられますが如何でしょうか。特に鍔等の研究にはこの様な傾向が強く感じられます。
当時の職人が山中で独り生活し作品を作っていた訳ではありませんので、当然の事
ながら、当時の社会を無視し、彼等を語る事は出来ない事と考えます。
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従いまして、今後彼等を考える上に於いては、政治、経済、宗教、文化等の広範囲の
研究調査の必要性を痛感いたしました。
大変少ない確率とは思いますが、この様な観点より彼等を見ていきますと、思わぬ
新資料の発見、他分野の研究者からの予想外の助言等があるのではないでしょうか。
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発表出来ます様な内容が準備出来ましたら紙面をお借りして発表したいと思い、
地道な調査、研究を続けたいと思います。
末筆になりましたが、本稿を書く上に於いて、調査に御協力いただきました諸氏、
特に得能一男氏に於かれましては多大な御協力をいただきました事と、この様な
機会を与えていただきました編集部の方々には心より感謝いたします。
また、この雑文にお目を通していただきました読者、紙面を提供していただきました
本紙に対し今後の御発展を祈念いたします。
私も今後この機会を礎とし、地道な研究活動を続ける所存であります。