半蔀(はしとみ)
 もう10年も前の事になるでしょうか、赤坂と思われる一枚の鍔を手に入れました。もしかして赤坂二代忠正ではないか?と心を躍らせ、丁寧に赤錆を取り除き、毎日毎日、布でこすって手入れを始めました。

昼はポケットに入れ何処にでも持ち歩き、夜はテレビを見ながら布で擦る。
最初はあまり気にしなかったが、毎日手にして眺めていると透かしてある奇妙な模様が気になり始めました。

何かの植物の葉っぱがある。蔦のようでもあるが反対側に鋭角に反り返った洋数字の3のような模様がある。不思議な模様。江戸初期にもう洋数字が使われていたのだろうか? 更に四角い窓が斜めになって四隅に植物の葉がある。判じ物のようでよくわからないが、全体的にはずいぶん粋な素敵な図柄である。

毎日毎日眺めていると、ある時数字の3の模様は半分しか表わされていないのではないかと思いはじめた。軸芯に沿って回転させると瓢箪のようなる。そう思ってよく見ると瓢箪が3個あるように見える。若い瓢箪もある。解った!これで解決した!と喜んだのも束の間、次の疑問が持ちあがった。「この四角い窓は何だ???」

私があまり毎日ぶつぶつ言いながら鍔を手入れしているので、ついに家内までが覗き込みました。家内は「瓢箪と窓・瓢箪と窓・・・・」と呟いていたがしばらくして、「草のはしとみ押し明けて、立ち出づる御姿、見るに涙もとどまらず」と謡いはじめました。全く偶然のことでしたが、来月大阪の大槻能楽堂で家内が演ずる能「半蔀(はしとみ)」のシテ(主役)の謡う一節で、只今練習の真最中、毎晩遅くまで練習していました。

早速謡本を見ると瓢箪のぶら下がっている半蔀屋の図が載っていました。
四角い窓のようなものは半蔀戸であることもわかりました。
とにもかくにも、思わぬ助っ人に助けられて鍔の図柄が能「半蔀」(はしとみ)を表わしている事に間違いないと思われます。

能「半蔀」の物語というのは
紫野雲林院の僧が立花供養をしていると、1人の女が白い花を供えます。僧が花の名を尋ねると「夕顔の花です」と答えます。僧が女の名前を尋ねると、五条辺りの者ですとだけ答えて女は花の陰へと消えてしまいます。

不思議に思った僧が五条辺りに来てみると、荒れ果てた一軒の家に夕顔の花が咲いていました。僧は夕顔の花を見て源氏物語の昔を偲んでいると半蔀を押し上げて女が現れます。女は夕顔の霊で光源氏がこの家で夕顔の君と契りを結んだこと、そのきっかけになったのがここに咲いてる夕顔の花である事などを語り、舞を舞っていましたが、夜が明けると、再び半蔀の内へと消え、僧の夢は覚めるのでした。
  縦79mm横78mm切羽台厚み5.4mm丸耳で耳厚み5mm
切羽台の上の方が尖り気持ちで、笄櫃が小さく、切羽台の中心から少し上にあがっている。